FEATURE

NMG 001 Nata

「NMG 001 Nata」のリリースとともに、Nicetime Mountain Galleryの新しい試みが始まる。
その制作過程について、デザイナー熊野亘が語ってくれた。

NMG 001 Nata
Nicetime Mountain Gallery初となるオリジナルプロダクトをデザインするにあたり、熊野亘はまず太古の時代まで視野を広げた。ただ歴史書を読み耽るだけではなく、熊野はこんにち使われている道具の起源を文字通り手探りで追い求めた。そうするうちにNicetimeと彼の間に、さまざまな形状や機能に対する共通認識が育まれ、新たなアウトドアプロダクトの基礎を形作ってゆく。「Nicetimeは新しいアウトドアブランドなので、“道具とは何なのか”という原点に一回立ち返って、すごくプリミティブな視点でプロジェクトを始めようと思いました。人間の最初の道具は石だったと思うので、石というもの自体を一度見直して、石がどのように道具へと変化していったのかを考えました」と彼は言う。
NMG 001 Nata
熊野は自身が暮らす長野県御代田周辺の沢や川をめぐり、石を収集し始める。それらを類型化しプロジェクトチームとともに研究しながら、どうすればそれらに特定の機能を与えることができるのか話し合った。探究の過程で、道具に要求される必要不可欠な要素は何か、どのように使いやすさや心地よさが生まれるのか、などというより深い対話が生まれてゆく。そのプロセスを振り返って熊野は、多様な視点を交わらせることの大切さに気づく。「独りよがりでものを作るだけで、共感されなかったり使いにくかったら、何も意味がないと思います。道具を作るということは、作る側のみんなが共通意識をきちんと持つことが重要です。」
NMG 001 Nata
そのような対話を続けながら知識を共有し積み上げてゆくことで、日本古来の道具である鉈(なた)を現代的に解釈した新たなプロダクトが誕生した。日本の山林で使われる鉈は、枝打ちや薪割り、そして焚き付け用の枝を切るなどの役割に特化した道具だ。そのシンプルな形は長い歴史の中で少しずつ洗練されていったものの、道具自体の基本的な構造はほとんど変わっていない。こんにちのアウトドアライフに最適化するようにこの道具をアップデートすることは、Nicetimeと熊野にとって挑戦し甲斐のある試みとなった。
NMG 001 Nata
「デザインをアップデートすることは、デザイナーの一つの大切な仕事だと思っています。古いものを研究し、現代の生活にあったプロダクトへと発展させていく作業には、常に多くの学びがあります。」と熊野は説明する。「テクノロジーの進歩によって、生活自体も日々進歩していく。そういうことに対して、常にアンテナを張って、古いものを継承するために新しい技術を使って、新しい生活のための物作りをしていくという事は、一人のデザイナーとして喜びです。」
NMG 001 Nata
鉈の歴史や流線形の意匠に向き合い、熊野はそれを形作るいくつもの要素を仔細に研究し続けた。見慣れたその形状を崩すことなく、どのように新たな素材、仕上げ、そして製造方法を取り入れることができるか。それによってどのように良い道具を作ることができるのか、彼は探究を継続した。彼が生み出したデザインの核となるのが新潟県三条市の老舗農器具メーカー、皆川農器製造株式会社によって作られた刃部だ。ステンレス製でブラスト加工がなされた両刃仕上げの刃部によって、一振りで楽に枝を切ることができる。使い心地を高めながらも衝撃を抑えるために伝統的な木製のハンドルはシリコンに置き換えられ、使用して摩耗した際は、新しいハンドルに交換できる構造にした。

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焚き火のための小枝を集めるときも、山中を移動するときも、NMG 001 Nataの妥協のない機能性の高さと使いやすさの両立を感じることができるだろう。それまでの伝統的な鉈の簡潔さを失うことなく、アウトドアアクティビティの楽しみを凝縮させるというNicetimeのプロダクトラインナップの精神を、NMG 001 Nataは見事に体現している。デザイナーとしての枠を超えて、熊野は今後もNicetimeとともにプロダクトを生み出し続けてゆく。「いままでのアウトドア市場にありそうでなかった、一歩を踏み込んで深めたいという時に必要となってくるアイテムを、Nicetimeのプロダクトで作っていきたいと思います。」
good design award 2022
熊野亘

熊野 亘 / designer

Wataru Kumano

1980年に東京に生まれる。2001年からフィンランドに移り、ラハティ工科大学(2001年から2004年BA)で家具デザインを学び、大学院研究のためにヘルシンキ芸術大学(アールト大学)で学んだ(2005年から2008年MA)。2008年から帰国、ジャスパーモリソン東京スタジオのデザイナーを務める。そのほか、2011年に独自のデザインスタジオ「kumano」を設立し、インテリア、家具、プロダクトデザイン、プロジェクトマネジメントを国際的に展開。2021年、武蔵野美術大学准教授に就任。

  • Text: Ben Davis / The White Paper
  • Photo: Masaaki Inoue / BOUILLON
  • Special Thanks: Groovisions